「自分が音楽をやりたいのか常に問う、確認する、考える。」ATATA奈部川氏|働きながら音楽活動をする・第5回 福岡編(1/3)

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2018年3月18日に開催された働きながら音楽活動をする・第5回福岡編は、ATATA奈部川氏とLOSTAGE五味氏の二名を招き、バンド活動と仕事の両立、活動のバックグラウンド、デビュー裏話などを伺いました。イベント後半には、来場者からの質問タイムも設定。

本記事では、一人目のゲスト、ATATA奈部川氏のトークレポートをお届け。「勤めていた会社が倒産」「自分には何も無いことに気づく」「ケアマネージャーの資格取得」。最初から音楽でご飯を食べるつもりはなかった、と思いながらも、それでも順風満帆とは言えなかった人生の中で気づいてきたことを語ってくださいました。

 

今回の「働きながら」は、初の九州上陸。西鉄福岡(天神)駅に新しくできたビル「SPACE on the Station」のイベントスペースが会場。

福岡編で語られた「バンドも仕事も両方続けるアーティストの話」は、全三回に分けてご紹介します。

 

※「働きながら音楽活動をする」企画についてはこちらから。

workxband.hatenablog.com

 

登壇者紹介

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奈部川光義(なべかわ・みつよし)/ ATATA

1974年生まれ。横浜出身。
新代田発(ライヴハウス)FEVER系を名乗るロックバンド・アタタのヴォーカルを担当。昨年、バンドとしては初の海外公演となるタイ・ツアーを終え、現在、新しい音源を製作中。音楽を通して物事を考えること、また文章として表現するのが趣味。音楽が自身の燃料。最新ミニ・アルバム「JOY」とライヴDVD『20160922』が好評発売中。

ATATA Webサイト

 

自分が音楽をやりたいのか常に問う、確認する、考える。

※以下、奈部川氏トーク書き起こし。注釈が無い限り、話し手は奈部川氏。

 

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※奈部川氏のスライドより抜粋

 

35歳になって、今のバンド、ATATAで活動するまで、20代はバイトもしてたし、正社員になってからも働きながらバンドをやってた。だけど、最初から音楽でご飯を食べるつもりはなかった。本当に最初から。

遡ると、それこそはじめて音楽を志した16歳の頃、よく夢描くじゃないですか、音楽で飯を食うとか。今まであんまりその理由を考えて来なかったけど、最近よく考えてみると、自分が16歳の頃、影響を受けたパンクバンドって、みんな貧しかった訳で。

僕が見て来たパンクバンドの舞台は全部汚れたライブハウスで、それに憧れをもった。だから音楽で食えるわけないって思ってた。

もしもスタジアムで演奏してるミュージシャンに憧れたら、違っていたのかも知れない。バッド・レリジョンののボーカルのグレッグ・グラフィンは学者だったり、ダグ・ナスティーのボーカルのデイブ・スマイリーは今でも学生だったりする。そういう人たちに憧れた。だから音楽をしながらも、学んだり働いたりする「もう一人の自分」は最初からセットだった。

 

人生の転機

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※奈部川氏のスライドより抜粋

 

ちょうど33歳、サラリーマンでした。ATATAを結成する2年前。人生の転機が訪れます。

会社が倒産します。路頭に迷います。

仕事しながら音楽をずっとやっていくつもりだったから、ある意味順風満帆だと思ってたんですよ。会社の倒産なんて自分の人生で無いと思ってた。

会社が倒産する時って面白くて、ウシジマくんやナニワ金融道みたいなことが普通に起こる。営業中の会社に借金取りが来たりとか、強面の人たちがたくさん来て、いろんなことを言ってきたりやってきたり。

人生ではじめて露頭に迷って、労働裁判を一人で起こしたりとか。省略しますけど、会社が倒産するのを見届けて、自分がこれからなにをするか。そう思えたのは会社が倒産して一年後でした。そこからいろいろ考えて。

倒産したときに自分自身、なにもないことに気がついた。手に職がない。会社の中にいて、組織の中で給料をもらって、それがアイデンティティになっていて、それを安心材料にしてた。それらがなくなって、ひとりになったときに何も無い、と。

 

人のために仕事をしてみようと思った

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※奈部川氏のスライドより抜粋

 

じゃあこれから何をしようかって考えた時に、残業なければ一日8時間と考えた時に、1日の1/3を労働に捧げるんだとしたら、手に職をつけながら、なにか人のためになることをしようと思った。普通はもっと若いころに気づくんだろうけど、僕は33歳の時に気づいた。

それで福祉の仕事をやってみようと思った。

34歳で、初めて福祉施設に入所します。40歳のときに、ケアマネ資格合格。41歳で転職。

試験に合格するまで6年間。ケアマネージャーになるまで、5年間現場経験を積まないといけなくて、ひたすら現場で経験を積みました。

 

効率よく働けば、バンドできる

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※奈部川氏のスライドより抜粋

 

なんでケアマネになったのか。

当時は、せっかくなので、役に立つ仕事をと思ってたんだけど、福祉の仕事を勉強する中で、業種によっては土日休みが多いってことを知って。たとえばケアマネはほとんどのスケジュール管理を自分でできる。効率よく働ければ残業もない。これはバンドもできるな、と。

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※奈部川氏のスライドより抜粋

 

で、平均的な一日のスケジュールをということで、見ての通り。一日外にいることが多い。いろんな人に会って相談に乗って、またいろんな人に連絡をとる。こんな感じで一日が進んでいく。

 

ライフワークとしての音楽をやる以上、音楽以外の自分にも責任がある

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※奈部川氏のスライドより抜粋

 

話は戻って、結局、僕は今までずっとパンクに憧れてきた。この写真のように生きていきたい。

さっき、ミュージシャンで学んだり働きながら音楽をやってる人を紹介したけど、僕はこの人にも影響を受けてて。チャールズ・ブコウスキーっていう人で、ミュージシャンじゃなくて、詩人+作家。郵便局で働いてて大酒飲み。49歳のときにやっと世間に認められたんだけど、その人生は映画にもなってて、書くことをやめれない人。単純に書きたいから書くだけ。この人は両立とか考えてなかったと思う。

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※奈部川氏のスライドより抜粋

 

だけど書くためには、働かないといけない。ライフワークとして音楽をやる以上、音楽以外の自分にも責任があると思っていて。働いて稼ぐこと。働いている以上は誰かの役に立つこと。

 

自分を突き動かすものは何なのか

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たとえば、「バンドをやる上でどうすれば仕事と音楽を両立できるか」なんてよく聞かれるし、過去のHP見てもらえれば分かると思うんだけど、いまはいろんなツールがあって、バンドの連絡調整とか、昔に比べれば楽にできる。

でもそれだけじゃないような気がすると僕は思ってて。音楽をしたいという自分を突き動かすものはなんなのか。自分が好きなこと、やりたいことと、どう付き合っていくのか。

結局、やりたければやるんですよ。別にツールが無くたって。だから本当にやりたいのかを自分にずっと問う。確認する。常に考える。僕はずっとそういうことを考えながら音楽と仕事をしています。

 

なにより、きっちり自立すること

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さっきのケアマネの資格の話をすると、資格をとってどう変わったか。なんの根拠もないんですが、気がデカくなります。手に職があるということは、たとえば、「神奈川、嫌だな」って思ったら、福岡に仕事がある。そうすると人生があんまり怖くない。手に職があるというのは、なにかに依存しないということでもあると思う。

テレビでもよくやってるけど、資格は持てば持つほど、精神的に自由になる。極端なことをいえば正社員になる必要もない。バイトでもいいし、独立でもなんでもいい。なにより、きっちり自立できる。自立したうえで好きなことやること。そうすることでより自分の音楽がリアルに、現実的になるかなと思います。

 

聴く人と同じ目線でいたい

あと最後に良いこと言って終わります。

なぜ自分が、働きながら音楽やるのかって考えたときに、聴く人と同じ目線でいたいと思うんです。

朝起きるのがつらい人を感動させたいなら、自分も朝起きないといけない。そういう自分が創る音楽でないと、誰かを感動させられないと、僕はそう思っています。

※奈部川氏トーク書き起こし、ここまで。

 

次回レポート予告

次回は、LOSTAGE五味岳久(ごみ・たかひさ)氏のトークレポートをご紹介。

メジャーデビュー、バイトしながらのバンド活動、メンバーチェンジなどを経験し、レーベルを立ち上げ、レコード屋もオープン。「バイトをやらずにバンドやるためにどうしたらいいか考えた結果、最終的に自営業だったんで」と語る五味氏の思いとバックグラウンドをお届けいたします。(了)

 

※取材・写真:シゲルカズキ instagramTwitter
※編集・ライティング:佐野匠

11月3日開催:働きながら音楽活動をする 第6回<神田編>

テーマは「働きながら音楽活動を続けるには?」

昨年神田で100名を超える参加者を集めた同イベントが、今年も同じく神田で開かれる「OUR MUSICE FESTIVAL 神田錦町音楽祭」内のトークセッションで開催。

 

Facebookイベントページはこちら

11/3【座談会】働きながら音楽活動をする 第6回<神田編> テーマ「働きながら音楽活動を続けるには?」

ゲスト

坂口修一郎(Double Famous/BAGN Inc./GOOD NEIGHBORS JAMBOREE)

...and more!

開催日時

2018年11月3日 (土・祝)
open15:45/start 16:00 (close 17:00)
※時間は若干変更する可能性があります。

場所

GOOD MORNING CAFE 錦町(東京都千代田区神田錦町3-20 錦町トラッドスクエア1F)

参加費

無料

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