(2/2)「好き」で続けられる活動が、人生を楽しくする:働きながら音楽活動をする第4回イベントレポート
2017年11月3日に行われたトークイベントの後半、クロストークのレポートです。
音楽活動とお金の話、ライスワークとしての仕事について、バンドを続けるモチベーションについてなど、実際にバンドと仕事を両立させている坂口氏、斎藤氏、山㟢氏の三人から、リアルな体験談や意見を伺いました。
登壇した3人の活動やバックグラウンドについては、前半の「3人のアーティストの「バンド×仕事」スタイルを確立するまで」の中で紹介しております。
ぜひ、クロストークと合わせてお読みください。
次回イベントも開催決定!
2018年3月17日、福岡県福岡市「SPACE on the Station」にて開催。ゲストとして、奈部川光義氏( ATATA)&五味岳久氏(LOSTAGE)が登壇します!
登壇者
坂口修一郎氏(Double Famous/BAGN Inc./GOOD NEIGHBORS JAMBOREE)
斎藤寿大氏 (Pepe California/ Saito & Co.)
山㟢廣和氏(toe/Metronome Inc代表)
※会場:錦町トラッドスクエア1F
※開催日:2017年11月3日(OUR MUSICE FESTIVAL 神田錦町音楽祭 イベント内コンテンツ)
※主催・モデレーター:鈴木 哲也(oaqk/Penguin Market Records副代表/ ヤフー株式会社)
※取材・撮影・レポート:佐野匠
登壇者のクロストーク
坂口氏の「バンド×仕事」
鈴木:ではせっかくなので、この流れでクロストークに入りたいと思います。
来て頂いた方に事前に質問を事前に頂いていたのですが、やっぱり仕事とバンドのバランスの取り方とか、仕事が忙しくなった時にどうやってバンド活動の時間調整するかとか、両立させていくための信念だとか、そういったものが多かったです。
皆さんは、どのようにバンドと仕事の両立に取り組んできましたか?
坂口:僕は、さっき言っていたジェーン・バーキンさんのツアーの時は、ある会社にプロデューサーとして所属してたんですね。そうすると、全米規模のツアーなので、ひと月ぐらいそこに関わっていなくてはならない。
鈴木:ひと月!
坂口:そう、ひと月くらい仕事を空けなきゃいけなくて。
「どうしようかな」となったのですが、これはちょとなかなかできる経験でもないし、行くしかないよなと思って。その頃は仕事が自分経由で依頼されるものが多かったんですね。
なので、「これだけ持っていけばやれるかな」という部分は自分で仕事をこなして、残りは当時自分の下にいた人達に仕事をどんどん振って、というふうに仕事が滞らないようにしていました。
今は長期にツアーに行くというのはあまり無いんですけど、仕事もバンドも同じ比重でスケジュールで管理してる感じですね。
僕の仕事っていうのはプロデュースの仕事なので、誰かに仕事を引き継ぐ事ができる。
事前にコンセプトを考えて、やる事を仕切っておけば、「その日現場に自分が絶対いなきゃいけない」っていうかたちでもないですからね。
僕はある時を境にもうそういう風に仕事の仕方をシフトしようと決めて二足のわらじにしてるのですが、「自分の音楽活動に自分がパトロンになる」っていう感覚だから好きな事ができる、こういう体制を自分なりのやり方として作ってきた、という感じですね。
斎藤氏の「バンド×仕事」
鈴木:斎藤さんもそうですか?
斎藤:そうですね、結局「バンドと仕事」っていっても、時間の事だけだと思うんですよね。
融通が利くような生活にしよう、っていうのは、そんなにしっかり考えていたわけじゃないですけど、多分、仕事始めたころから何となく思っていたのだとは思うのですよね。
なので、さっきの坂口さんとまったく一緒ですけど、予定組む時に別に「今日は休み」とか「今日は仕事」とかそういう考え方じゃなくて、「午前中打ち合わせがあって、午後リハやって、夜ライブ」「翌朝は歯医者がある」とか、仕事もバンドもプライベートな時間もすべて生活の一部っていうか。
時間が空いてれば仕事もバンドもできるし、先に予定が入っていると、時間調整しなくちゃ、という感じですね。
バンドの中では、僕が一番仕事が自由になるんですね。もう二人が、一応会社員みたいな形。会社といってもある程度融通きかせてくれていますけど。
あと、「奥さんいて、子供がいて・・・・・・」みたいなると、それが一番大事なことになってくるので。
今のバンドだと、メンバーのKBに子供がいるので、KBの奥さんと子供がやっぱり予定の方が優先ですね。「沖縄で二か月後にライブのオファー来たよ」となっても、「うちの子、運動会の日だ」ってなったらライブ行きませんし。そういうことありますよね?
坂口:あるある。
斎藤:あります?なります?だから、一番バンドで大事なのは、KBの奥さんの予定とか気持ちとかね。
山㟢:嫁の気持ち問題。
斎藤:それがやっぱ一番
山㟢:でもやっぱね、お金が入ってくると変わるんだよね、嫁の気持ちも。(笑)
斎藤:それなんですよね。(笑)それで僕らCMの仕事やってるところもあります。
CMの仕事って人に頼まれて「お題があってやる」仕事なので、いわゆる、「自分達で創る」とはちょっと違うんですけど、まあその代わりギャラが入ってくるじゃないですか。それを家庭に入れると、嫁も優しくなってくるんじゃないかと(笑)。「来月ライブやってもいいよ」みたいな感じに。
坂口:そういうお許しが出るのですね。
斎藤:そう。お許し、すごい大事なんで。
山㟢氏の「バンド×仕事」
坂口:会社よりもそっちの方が大変。toeにもありますか?
山㟢:そんなに無いですけど、基本的に仕事の予定よりも、バンドの予定の方が先に決まっちゃってるんですよね。
ライブって、けっこう半年先に開催みたいなこともあるじゃないですか。だからもう、仕事のオファーがあっても「この日ライブ入ってるんで」っていう感じなんですよね。
みんな、逆に「そんな先まで個人的な仕事の予定が入ってんのかな」っていう。
坂口:あー、なるほど!
山㟢:仕事の中でも、そんな長いプロジェクトってあんまり無いじゃないですか。坂口さんとかあると思うけど。
坂口:僕の場合は、そのさっきのジェーン・バーキンのツアーは、行かなかったとこもあるんですよ。
それは、自分が直接依頼されてやっている仕事は人に振れるんだけど、「GOOD NEIGHBORS JAMBOREE」は僕が主宰してるんで、その仕事のタイミングに「ミャンマーか上海かに来てくれ」って言われたこともあったのですが、それは断ったんですよね。その時は、別の人に行ってもらって対応したんですけど。
それ以外は、基本的に音楽と仕事でなんとか調整つけてるって感じですね。
山㟢:すでにバンドの予定が先入ってるんで、たとえば引き渡しの日を調整してもらったり、ということもたまにあるのですが。
坂口:そんなことできるんですか?
山㟢:だから、「できねえ」って怒られる時もまああるんですけれども。「バンドの予定が先に決まっているのでスミマセン・・・・・」って感じですね。
オリコン入っただけじゃ全然食えない
坂口:なるほどね。うちのバンドはそうなんですけど、楽屋でパソコンガチガチ打って仕事してる事はけっこうあるんですよね。わりとみんな、場所にしばられない仕事をしてるので。
僕らメンバー10人って言いましたけど、90年代ぐらい、一番活動していた時はみんな会社員だったんですよ。で、そのなかでいろいろな状態のメンバーがいたっていうのもあって、なかなか大変だったんですよね。2003年ぐらいに、僕らが出したアルバムがオリコンチャートに入ったんですけど、その時はオリコンにも入ったし、レコード会社とも契約したし、フジロックにも出たし、当時は「なんかやれんじゃないの?」って思ったんだけれども、全然それじゃ食えないわけですよ。メンバーが10人もいると、全然食えない。
なんか、「あれっ、オリコンにちょっと入った程度じゃ食えねえんだな」って思って。これオリコンに、年に何回も、しかも上位にバンバン入るくらいじゃないと、音楽だけじゃ食えないんだってその時わかって。これはちょっと、違うやり方しないとな、と思いました。
盗んだバイクで走りだす感じとか、ティーンエイジャーの恋物語みたいな、オリコンTOP10に入りそうな要素、全然無いよな俺たち、って思って。これはちょっと違う方向性の事を考えなきゃいけない、ってなって。
それでみんな、独立して、フリーランスでライターをしたり、フリーのデザイナーになるといういうふうに、仕事とのバンドの折り合いつける為にだんだんそうなっていきました。
バンド活動での収入ってどれぐらい?
鈴木:事前に頂いた質問の中でも、「音楽活動でどのくらい収入があるか」みたいなのをこうシビアに聞きたいっていうのが、結構若い世代から多いのですよね。
前回も前々回もあったし、その時には、バンドの年収のグラフを「これはツイッターで拡散しないでね」ってちょっと見せてもらったりしていました。
CDが売れるとか、ライブに呼ばれるとか、楽曲がCMに使われるとか、音楽活動の中の収入はいろいろあると思うのですが、例えば坂口さんの時にはどんな収入の比率でしたか?
坂口:オリコン入りしたのは2003年の事なので、ひとまわり以上昔の事なんでちょっとあれなんですけど。
これ、抽象的な話にしときます。(笑)
当時、年間でライブは結構やってたんですよ。それでも20本とか。30本やった年もあったかなっていうぐらいなんです、僕らは。
で、その頃もバンド以外にメンバーみんな仕事もしてたんで、10人のスケジュール合わせるって当時はもう至難の技だったんですよ。それでもライブを何十本もやって。へとへとに疲弊したみたいな感じになってました。
そうすると、だんだんメンバーの仲もギスギスしてくる。ずーっと一緒にいると、喋ることもなくなってきて口聞いてくれなくなるし、曲順決めるのももう勝手にしろよみたいな感じにだんだんなってきたり。するとなんのためにこれやってたんだっけと。
僕らどれくらい稼いでたんだろうな。多分、バンドで数百万だと思いますよ。仮に500万稼いだとして、一人でやってたら年収500万だったら「まあいいじゃん」って感じになるんだけど、うちの場合、それ10人で割るんですよ。年収50万じゃないですか。
鈴木:そうですね。
坂口:それで、このまま結構頑張って、7〜800万円稼いだとしても年収70万かよ、みたいな感じ。オリコン90位台じゃこういう感じか、っていうのが当時の感覚。これじゃ家賃はでないなって。・・・・・・なんか夢の無い話しちゃってるけど。
鈴木:いやいやいや。
坂口:ものすごい申し訳ないんですけど(笑)
バンドだけで食べていく方法を逆に聞きたいぐらい
鈴木:そういう部分を知った上で進路を決めたい、という方もいらっしゃると思いますし。今回のテーマでいう「バンドと仕事のバランス」という部分も含め。
そこでいうと山㟢さん、ライブ結構多いじゃないですか。あと海外でも出演するし、フェスにも出ていますし。やっぱり、ライブの収入っていうのは、「ある程度」ですか?
山㟢:そうですね。そもそも、知り合いの中でも「バンドだけで食ってる人」っていないじゃないですか。
坂口:ああ、いない。
山㟢:いないですよね。逆に僕らが教えてほしいですよね。どうしたらそんなに、食ってけるほど音楽でお金がもらえるのかっていう。
坂口:そうそう、だからやっぱりね、仕事って2種類あるじゃないですか。「頼まれずにやる事」と「頼まれてやる事」。頼まれてやる事っていうのは、仕事として頼んできてるからお金になるんですけど、「頼まれずにやること」はお金になりづらい。僕ら頼まれてもいないのにやってますからね、バンド。誰にも頼まれてない。
斎藤:ほんとそうですよね。
坂口:オファーは来ますよ、今は。実績ができてくるともう一回やってくださいっていうのはあるけど。基本的にはそもそも「バンドをやってください」って頼まれてないんですよ。
山㟢:勝手にやってます。
坂口:勝手にやってるんですよ。勝手にやってることって、なかなか莫大なお金にはならないですよね。
山㟢:全然ならないですね。だから逆に、バンドだけで食べていってる人にどうやってやったらいいのかって聞きたいくらいですけど。
あと、ライブとかお金にならないじゃないですか。だいたい、僕らもライブで「この金額でやってください」ってあるじゃないですか。「やりますよ」ってなるんですけど、交通費だったり、宿泊費だったりで。
鈴木:そうですよね。
山㟢:交通費や宿泊費、バンドのメンバー以外にPAさんやあとローディーさん。あとケイサクくん(キーボードサポートの中村圭作氏)も一応サポートだからお金払って、ってやると、おじさん7人が2日かけて移動してって。だからライブは別にお金になんないですね。
坂口:そうそうそう。だから、僕らがすっごい頑張って年間20本30本のライブやっていた時に、なるほど、と。
例えばですよ、10人のバンドで一人500万の年収稼ごうと思ったら、年間5000万稼ぐとなると、普通のサラリーマンよりも、もっと毎日ライブをやって、延々とそれを続けることになると。
これ無理だと。じゃあどうするのかっていうと、やっぱりレコード売るしかないんですよ。
ただ、CD売るっていっても、なかなかね、これね、ハードル高いですよ。ヒットしないと、勝手に売れていく状況ができないと。
「なるほど、これでは食っていかれないんだな」っていうのはね、正直思いました。
お金が無くても、やりたい人はやる
山㟢:そもそもあんま、お金の事考えて・・・・・・
坂口:そうそうそう。
山㟢:やんない方がいいんじゃないかな。だから頼まれてない事なので。
坂口:そうそうそう。ま、金無くてもやるしかない、って衝動的にやってるのが前提。
山㟢:前提な話になってきちゃうんですけど。
坂口:そう。
山㟢:だからね、逆に、自分のことを「ちゃんと仕事も安定して、家庭もきちんとして、バンドもできて」なんてお膳立てをしてくれる人は別にだれもいないので、どんなに苦境に立たされても、やりたい人はやりたいし。
坂口:そうそうそうそうそう。
山㟢:そういうものじゃないと、その人もほんとにやりたい事じゃなきゃ、音楽として面白い良いものじゃないと思うんですよね。
「なんとかするよ」っていう感じで考えるしかない。ライブでいくら儲かるかとか、そういうの考え始めたら、すごい割の悪い仕事だし。
斎藤:仕事って考えるとね。
山㟢:そう、割りの悪い事なんで。
坂口:仕事とするとそうなるよね。
山㟢:サラリーマンでちゃんと仕事してた人の方が年収上だと思うし、社会的信用もあるし。でもその分、バンドってやっぱり楽しいですよね。だから、やってるわけで。
なんか、両立させるって思わない方がいい感じがする。仕事やりたかったら仕事やってればいいし、音楽やりたかったら音楽やればいいし、とは思うし。でも音楽だけやってお金にならないんだったら、他で仕事するしかないし。
坂口:そうですね。
山㟢:まあでも、仕事も面白い仕事の方がいいとは思いますし。
バンドを続けるモチベーション
鈴木:そうすると、山㟢さんの場合、バンドを始めた時から、いまに至るまで「そういうものだ」という形で続けてきたような感じですか?
山㟢:そうですね。結構、色んなところで言ってるんですけど、音楽を始めたときに、僕らのまわりで音楽で食べてる人なんか全然いなかったんで。
自分が大好きなバンドとかも、その人達は普通にバイトしてましたし、テレビでかかるようメジャーな曲とは違うライブハウスのシーンがありますし。それに憧れてバンドを始めているから、逆に「バンドでお金もらえるんだ!」みたいな感覚がずーっとあるんですよね。
だから今、自分的には19歳ぐらいからずっとやってきた事があんまり変わらないと思うんです。やりたい音楽がこう、ずーっとあって、最近は結構お客さんも来てくれたりとか。
その状況はすごく嬉しいんですけども、それはもう、本当にたまたまな感じがして。音楽とかも、すごくこう、個人的なものじゃないですか。そういうなんか、超どうでもいいような個人的なことをわざわざ発表しているような。
坂口:まあね。人様にね。
山㟢:そういうものが安定したお金になるって気も無いし、そういうのはいつも思ってますけどね。
だから、今は「自分が好きな音楽」と「いいなって思ってくれる人」がたまたま数が多いだけで、全然合わなかったら、みんな聞かなくなっちゃうだろうし。
それはそれでしょうがないから、やるべきことははお客さんいなくてもずっとやってたので、それでお金が入ってこなくても、まあバンドはやるだろうなあとは、思ってますよね。
鈴木:そのあたり、斎藤さんは?
斎藤:そうですね。まあ、バンドやるモチベーションっていうのはそれぞれあるのだと思うんですけど、僕らがやっているバンドは、ライブではなく宅録から始まってるんで、どっちかっていうと「音源」なんですよね。
メンバーによってちょっと熱量変わると思うのですけど、やっぱり、いい音源作りたいなっていうのはずっとあって。それやっていく為には、才能があればね、1枚でも伝説になるような1枚ができたら、1番いいなと思うんですけど。
坂口:そんな人いないからね。
斎藤:で、もう5枚ぐらいアルバムを作っていて、作っていれば分かるんですけど、そういうのなかなかできてないんで(笑)。でも、いつかそういうのを作りたいなとは思います。
1曲でもいいんですけどね、そうやって、長く聴かれるものとか、ずっと残るものとか、そういうのを作る気持ちはすごくあって。自分には才能は大して無いって思っているので、とにかく作り続けることかな、って。
「全然釣れないんだけど、なんか、すんごいでかい魚がかかるかもね」みたいな気持ちで今続けるのが大事かなって個人的には思ってやってますけどね。
だから「ライブ」だと、やっぱり一人も客がいないっていうライブにはならないんですけど。でも録音だったら、3人で集まって録れば、できたみたいな感じになって、それを聴いて、「ああいいね」みたいになって、ちょっと飲みに行こうかって感じが一応成立するんですよね。
坂口:まあね、3人だとね。
斎藤:はい、そうです。
坂口:僕らなんてメンバー10人もいたので、バンドよりもお客さんが少ないってことありましたよ。
斎藤:あーそのパターンつらいっすよね。
坂口:それはね、こういうところ(今回の会場のような野外)でやってて、台風直撃してね。それでも告知しちゃってるからやんなきゃいけないっていう状況だったのだけれど。
でもまあ、そういう時でも続けるっていうのは大事だし、一方で家に住まなきゃいけないし、めし食わなきゃいけないし、人によってはこどもも育てなきゃいけないし、ってなると、音楽をやってようとやっていまいと生きていくためにお金は絶対必要なんですよ。
斎藤:うん。そうですよね。
坂口:だから、それをどうするか、っていうところで、普通に自然とまた「仕事する」かっていう風になった。
斎藤:うん。そりゃそうですよね。
音楽活動で得たものを仕事のキャリアにフィードバックしていく
坂口:だから、音を換金するっていう意識があんまり無かったのだけど、今僕がやっている仕事もそうですけど、イベント企画したりとか、そういう場を作ったりっていうところに、音楽活動のなかからフィードバックされていくというのが非常に多いんです。バンド活動やって知り合った人から仕事が来るとか、バンドを通じて知り合った人達にオファーしたりとか。
斎藤:ああ、なるほどなるほど。
坂口:企画の仕事というのは常に動いてないと完成していかないので、僕の場合はそういうバランスでやれているんですよね。
だから、バンド活動やればやるほど、音楽活動やればやるほど、色んな人と知り合って、そういう人たちと一緒にもう一本の「ライスワーク」の方をやっていく、っていうのが、僕のペースで、だからこそ続けられるっていう感じはあります。
僕もそうでしたが、20代とか10代の時はバイトしながらバンドを続けるみたいなのが割と若い時の定番の姿じゃないですか。
だけど僕は、20代で大学卒業してちょっとしたくらいで、バイトしながら続けるってなんかちょっと違うな、って違和感があったんですよね。
そういうやり方はもちろんありだと思うし、ピュアに音楽のだけ集中するっていうのはあるのだと思うんだけど、音楽活動も仕事も同じで、キャリアを積み上げていくことが大事じゃないですか。でもずっとバイトだとキャリアにならない。
僕は音楽活動の一方で、ライブハウスを作ったとかフェスティバルを自分で始めたとか、そういうキャリアを自分で積み重ねてやってこれたんですけど、それは全部色んな人の繋がりの中でやれたんです。
でもずーっとフリーターのような実績の積み重ねができない仕事のままだと、キャリアとか繋がりとか、それが作っていけない。
だから、さっきキャリアをどっちにふればいいのか、「バンドだけでいくのか」「仕事もするのか」って悩んでるっていう話がありましたけど、悩んでるんだったら、とりあえずこっちのもう一本のキャリアも積んどいた方がいいんじゃないかな、っていう気がしてます。
山㟢:そうですね。
坂口:だから今、こんな仕事をしてるんですよね。音楽に対する夢を打ち砕いてしまって申し訳ないなと思うんですけど、バンドだけで食べていくのは、なかなかそれは難しいなと。それはもう絶対普通そうなんですよ。
だから、音楽だけでだときつい、ってなったら当たり前のように仕事もしていけばいいと思います。
それを「(音楽に対して)ピュアじゃない」っていう考え方は、もちろん僕はすごくわかる。僕もかつてはそう思っていたこともあったけど、今は「それも確かにアリだと思うけど、それだけじゃない」という第三の道みたいなのはいっぱいあるよ、っていうのはお伝えしたいかなと思ってます。
昔の自分に何を伝えたい?
鈴木:以前開催したときに、「10年前の自分に伝えたかったこと、15年前の自分に伝えたかったこと」っていうのをプレゼンしてくれた方もいました。
そういう形で、今の自分が過去の自分にかけるような事まで一言あれば。
坂口さんが今言ってくださった「第三の選択肢」というのがありましたが、そういうものって斎藤さんあります?
斎藤:10年前?15年前?そーっすね。あの、いや、結構、なんでしょうね。思ったより長く続いちゃったので、もっとちゃんとやれ、って言いたかったですね。バンド活動を。
僕らそれで、「俺たちは演奏じゃない、センスだ打ち込みだ編集だ」みたいな事思っていて、「ライブは頼まれたからやってんだ」みたいなスタイルでずっと来ちゃったんですけど、ここへ来てもっと練習しとけばよかったなってすごいいつも、思いますね。
坂口:ああ、10年前の自分にもっと練習しとけと。
斎藤:練習しろと言いたい。仕事関係ないんですけど。
坂口:今の仕事は、メインの業務っていうのはどういう感じなのですか?
斎藤:僕は企業のウェブサイトを作る事が多いのですけど、最近はそれだけではないですね。デジタルのコミュニケーションで、企業がどんなふうにやっていくかっていう相談を受ける、コンサルティングみたいなこともやっています。
で、それを受けた後に制作の方を監督する事もあって、コンサルとプロデュースがメインの仕事ですね。
坂口:それはやっぱり、バンドとか音楽活動やっている事で。
斎藤:はい。坂口さんみたいにそこまで直接な関係はやっぱりないので。
坂口:だけどバンドといっても、ライブやるのもCDとかレコード作るのも一個のプロジェクトじゃないですか。だからそれを作っていくのは、感覚は変わんないんですよね。
1個のプロジェクトを立ち上げて、それをフィニッシュさせて、それで、お金を回収するとこまでやるっていうのは、仕事でも一緒ですよね。
斎藤:まあそれは変わんないですね、確かに。なんか10年前の自分に言いたいことは、坂口さんありますか?
坂口:そういうバトンがくるとは。(笑)
斎藤:なんかもうちょっと、いい話聞きたいなって。
坂口:いや、僕今46なんですよ。10年前っていうと、36でしょ?36の時はもうこういう仕事の仕方をしようと思ってた。
斎藤:ああ、そっかそっか。20年前の26の時はどうですか?
坂口:いやあ、20年前はね、そうとう悶々としてましたよ、やっぱり。
斎藤:97年とかですよね?
坂口:「97年。97年っていうのはDouble Famousが最初のアルバムをレコーディングしてた頃で、それこそ会社の夏休みでレコーディングしてましたからね。
当時はフリーターしてたやつもいたので、あの時はね、僕の夏休みのスケジュールにレコーディングを合わしたんじゃないかな。それでみんなにすっげえブーブー言われたりとか。
で、7日間で録りきらなきゃいけないとかなると、みんなすごいプレッシャーで。初めてのレコーディングだし。10人でしょ。だからもう結構大変だし、こんなにブーブー言われんの嫌だなと思って
「俺もちょっと、フレキシブルな仕事にしよう」と最初に思い始めたのはその時かもしれないですね。
だけど、その時の自分に何か言うとしたら、独立するのでもなく、ミュージシャンとして単純にやっていくのでもなく、音楽だけで生計立てるのじゃなく、辞めて仕事だけするってのでもなく、「もうちょっと違う道が、楽しい道がみつかるぞ」っていうのは言ってあげたらいいかなっていう気がしますけどね。
斎藤:結局それは、坂口さんがその後選んだ道って事ですか?
坂口:今はそれで楽しくできているので、今はいいかなって思いますけどね。
山㟢:10年前ですか?けっこう最近ですよね。10年って言うとね。
鈴木:15年くらい前だったら?
山㟢:15年くらいですか?そうですね。バンドやってる時ってすごい楽しいんで、あんま悶々した事が無いんですよね。だからなんか、あの、そうバンド始めた時がすごいこう泥水をどんどん飲みながらやってたんで、状況はずっーと良くなってきてるんですよね。
坂口:最初がね。
山㟢:最初がもう、ライブハウスのブッキングで、平日のブッキングとかを入れられるんですよ。
ライブハウスから電話かかってきて、「何月何日ライブやりませんか」って言われて。で、全然知らないバンドと4バンドぐらいでライブ組んで。その時にノルマで1バンドあたり20枚とか40枚とかチケットを売らなきゃいけないんですね。
でも、そんな誰も知らないバンドなんか別にチケット売れないじゃないですか。
坂口:売れないとね、自分で払わなきゃいけないしね。
山㟢:そうです。毎回ライブやる度に1人7000円払うっていう、お金を払って演奏を観てもらうっていう。特殊な表現方法で。しかもお客さんは対バンの人だけ、みたいな。
そういうのを、もともとずっと若い時やっているんで、自分たちのライブに来てくれる人がいると「あ、チケット買って見に来てくれる人がいるんだな」みたいな。
坂口:ああ、それはね感動するよね。
山㟢:ほんとにそうで。結局会社に属していないっていう事は、自分でお金も貰ってこないと家賃も払えないし、従業員にもお金を払えないし。
一応会社に属していると、「一週間プロジェクトやりました、でも結局ぽしゃっちゃってお金が入りませんでした」ってなっても、会社からお給料は入ってくるじゃないですか。
でも俺らの場合、仕事をもらっても、結局やらなくなりましたっていったら、もらえるお金はゼロなんで。
坂口:そうですね。
山㟢:だからなんかこう、フリーランスというか自分でやっていると常にお金の心配はやっぱりあるんで。だから、いまだに毎月月末嫌ですよね。
まあそういうリスクもあるけれども、まあ自分でやりたいように、仕事の日程なんかは調整できるんで。
でもまあ、どっちがいいかっていうと、バンドやりたいんならそういう仕事のしかたじゃないとできないんじゃないかな、って思ってやってますけどね。
坂口:じゃあ15年前の自分には、その頃まだ会社やるなんて思ってなかったでしょ?
山㟢:結局、会社勤めたことないですもん。洋服屋さんのバイトやって、親方のとこ行って。
坂口:そのままでいけるぞと。
山㟢:はい、そのまま頑張れるって感じ。
参加者からの質問:ライスワークとしての仕事への熱量について
鈴木:ありがとうございました。せっかくなので会場の方からも質問を。なかなか無い機会なので。誰か質問を・・・・・・あ、はい、どうぞ。
質問者: 僕自身もtoeの山㟢さんに憧れてバンドを始めて、「みなと」というインストバンドをやっています。
僕今フリーでディレクターをやり始めたところで、みなさんのお話を聞いて思ったのですが、バンドと仕事それぞれ、どのような考えで取り組んでいるか聞かせていただければと思います。
バンドと仕事で違う考え方で取り組んでいるのか、仕事も「好きだからやりたいことをやっている」という感じなのか。
坂口氏の回答
坂口:年長からですかね?これは?
ワークライフバランスとか、「ライフワーク」と「ライスワーク」とかよく言いますが、バンドも仕事じゃないですか。頼まれてやる場合はやっぱり結果を出さなきゃいけないし、チケット買って来てくれる方がいる以上は、プロだろうとアマチュアだろうと関係無いのでやっぱり精一杯やるしかないっていうのが一方ではある。
みんな就職活動とかするから、仕事って基本自分が「選ぶ」ものだと思っているじゃないですか。自分でこういう仕事をしたいとか、音楽(の仕事)をしたいもそう、デザインの仕事したい、建築やりたい、オーガナイズとかプロデュースとかやりたいとか。そういって自分で選んでると思ってるんだけど、本当は仕事って向こうから「選ばれる」ものだと思うんですよね。自分で選んでいるつもりになっているだけで、ほんとうは仕事から選ばれないと、うまくいかないんですよ。
例えば、この案件はどうしても取りたい、っていうのがあったとしても、マッチングが良くなければうまくいかないし、やってはみたもの、自分が取りたいと思っていたわりにはひたすら辛い、っていう仕事もあるわけですよね。それ多分ね、仕事から選ばれなかったんだと思うんです。
仕事をしてて、スーッとやっていけているときは、「俺はこの仕事に、今回この案件に選ばれ」たと思えるし、そういう時はストレスもそんなに無いし、大変な事があっても我慢できる。
だから、そういう感覚でいくと、僕は音楽も普通の仕事もあんまり変わらず、フラットに付き合っています。で、そうやっているうちに、実績ができて仕事が仕事を呼んでくるようになる。僕も最初は、イベントのオーガナイズとかプロデュースをして人を雇って食っていけるようになるなんて全然思ってなかったんです。
でも、一個の仕事が次の仕事を呼び、今度は場を作る仕事、お店を作るとかそういうプロデュースの仕事になっていったのは、今のところ、その仕事に選ばれたのかなと思ってやっている。
一方でバンドの方も辞めずに続けられている、お金になるならないは別として続けられてるっていう事は、お客さんがいてくれるということで、それはある種その仕事に選ばれたのかなと思っています。
だから、僕は仕事をしている時は自分がバンドをやっている事も一旦フラットにして、あんまり何も考えずにどの種類の仕事も等しくフラットに付き合うっていうのを心がけてます。
「音楽活動の為」に嫌でもカネになる仕事をしなければ!とか考えちゃうと、なんかこう、どっか何かが狭めちゃうような気がする。あまり余計なこだわりを持たずフラットでいる事で、いい仕事から選ばれる状況を作っていけるっていう。ちょっと抽象的ですけど。
こんな答えでいいのかわかりませんけれども、そんな感じです、僕の場合は。
山㟢氏の回答
山㟢:一人の人間がやってるんで、同じような思考回路にはなると思うんですけども。
バンドをやる為に、ごはんを食べるために、お金を稼ぐ為だけに別にやりたくもない仕事をやる、そっちは適当にやっときゃいいや、みたいな感情は基本的には無くてですね。
それも個人にもよると思うんですけども、自分が関わるからには、仕事でも音楽でも良いものにならないと嫌だなって気はしてるので。やるんだったら、良いものが作れるようにと思って両方やってますけどね。
斎藤氏の回答
斎藤:そっすね、楽しんでやった方が続くかな、っていつも思ってやってますけどね。
僕個人的には、期待されて仕事を頼まれて、それに応えて、その結果が期待以上のものだったりすると、相手も喜んでくれる。そういうのがすごく、自分が何かやるときの動機になっているんですよね。
なので、今話聞いてて思ったのは、仕事もバンドも、動機という意味では実はそんなに変わんないんじゃないかと。
自分自身はとことん音楽を突き詰めたいっていうより、メンバーの二人がバンドをやりたいって言ってくれているから音楽続けられているっていうか。まあそれはお互いさまだとは思うんですけど。
自分はバンドの中ではどっちかっいいうとマネージャーみたいな事やっている場面も多いんです。なので、ちょっとそういう事なのかなとも思いましたけどね。
「頼りにされたらそれに応えたい」みたいなことろがあるので。(了)
次回イベント情報
2018年3月17日、福岡県福岡市「SPACE on the Station」にて開催。ゲストとして、奈部川光義氏( ATATA)&五味岳久氏(LOSTAGE)が登壇します!