バンド海外ツアーは働きながらできるのか?バンドと仕事を両立させるバンドマンが教える「海外ツアーのコツ」
働きながら音楽活動をする:海外ツアーのコツ
「働きながら音楽活動をする 海外ツアー働きながらできるの?」の中では、西氏・武田氏の知識とノウハウを基にした「海外ツアーのコツ」もご紹介いただきました。お二人の仕事や実体験を基にした、生きた情報です。
西氏からは、アジアを海外ツアーで廻るだけでなく、レーベルとして海外からもバンドを呼んでいる経験から、様々なノウハウを伝授。武田氏からは、行政書士の知識から、バンドマンが使える3つの補助金をご紹介。
また、海外の「働きながら音楽活動」を行っているバンド、mutesiteからも、どんな仕事をしながらバンド活動や海外ツアーを行っているか話を伺いました。
西氏が伝授するのコツ「アジア圏ツアーでの経験にもとづいたノウハウ」
以下、西氏のトーク内容からお伝えします。
サラリーマンが行うべきツアー費用対策「投資信託」
※西氏のスライドより抜粋
西氏:まず、サラリーマンが行うべきツアー費用対策。自分の経験にもとづいて「こういうことができるんだよ」っていうものをお伝えしようと思います。
仕事の給料をバンドやレーベルに注ぎ込めないとうのが西家の事情。もちろん、実を言うと多少は注ぎ込んではいるんですけど、奥さんには「バンドとレーベルにはお金をつぎ込んでいないよ」っていうスタンスで生活しています。
じゃあどうするのかというと、さっきの武田君の家賃と収入みたいな話で、「投資」がサラリーマンにピッタリなんじゃないかなと思っています。
投資というと、「株」が代表的なところだと思うんですが、結局、日々の株価の変動が気になって、本来集中すべきバンドやお仕事に支障をきたすんじゃないかと思います。
不動産というのも、全然ナシではないんですけど、僕はすでに自分の持ち家を所有しているので、あらためて二件目を持つという気持ちにはなりません。あと、買ったものを売って現金化する、という意味ではすごく大変なんですよね、不動産って。
西氏:おススメっていうのが、「投資信託」ですね。これがたぶん、サラリーマンに向いてるんじゃないのかなと思います。
いよいよもって投資セミナー観たくなってきましたが、そういうのではないです。(笑)僕も詳しくないし。
投資信託は、投資家から集めたお金を、ファンドマネージャーといわれるプロが運用して成果を出してゆく金融商品ですね。これは元本保証が無いので、しっかりとした商品を個人の責任で選ぶ必要があります。
僕の場合は何種類かの商品に、給料や賞与のお金の一部を積み立てしています。例えば不動産や株を組み合わせて運用している商品を選んでリスクが少なくなるようにしています。ざっくりした年間の運用実績でいうと、約100万円の投資で一人分の飛行機代+安いホテル代くらいにはなっていて、かなり助かっているという実情です。
海外ツアーで役立つスキル
現地での物販の相場価格を知っておく
※西氏のスライドより抜粋
西氏:ここからは経験に基づいた超実践的な内容になります。
これはタイツアーでCDアルバムを売った時の例ですが、タイのローカルの値段を知っておくということですね。適正価格帯で販売して収益をよくすることが大切かなと。
ローカルの値段とは「タイのバンドがタイで売るっていう金額」と「外国のバンドがタイに行って売るときの金額」という二種類があって、両者には明確な違いがあるんですね。
例えば、日本のライブ会場でも、日本のバンドのTシャツには払っても4,000円までかなというところですが、海外バンドのグッズなら8,000円でも買っちゃう、みたいな現象があると思います。
タイの物販でも似たようなことがあります。
フルアルバムのCDなら300バーツまでっていうのはタイで物販するときの最大価格。要は「外国のバンドだったら300バーツまでだったら払ってもらえる」っていうのが、僕らが事前につかんでいた情報です。こういう事前のリサーチが必要になると思うんですよね。
そこで、deapsea drive machineがタイのフェスに出演させてもらったとき、最初250バーツで販売してましたけど、50バーツ札を持っているお客さんがあまりにも少なくて、すぐに会場でおつりが不足してしまいました。後で知ったのですが50バーツって、あまり流通していなくて、日本でいうところの2,000円札的な存在だったようなんです。そのときは、急遽240バーツに値段を変更して販売しました。これは結局事前のリサーチが不足していたという一例になるかと思います。
電圧変換機とコンパクトな機材
※西氏のスライドより抜粋
西氏:僕のレーベルは海外からバンドを日本へ呼ぶことが多いので、口が酸っぱくなるほど海外のバンドに対して言っているのが、「日本は電圧やコンセントの形状が違う、そのままじゃ動かないよ」ということです。海外から来たバンドのメンバーにかならず一人は、ペダルが動作しないとか、コンセントの形が合わないとか言う人が出てきます。
逆に自分たちが海外ツアーに出るときも同様ですね。そのため、僕は中国製の変圧器を持って行っています。また、機材を小さくまとめていくことも重要です。機材が重くなると、飛行機でそれだけ料金が加算されます。
deepsea drive machineのギタリストは、普段はこれだけのエフェクターを使いたい人なのですが、ツアー時はこの辺(右スライドの赤マル内)を駆使してもらって、機材量を半分以下に減らしてもらっています。
アジアでは英語が必要
※西氏のスライドより抜粋
西氏:これが実は今日一番言いたいことの一つだったりします。アジアの人たちは、僕たちが思ってる以上にみんなすごい英語を話せます。アジアはなんだかんだ言って絶対英語が必要。
例えば、サウンドチェックのとき、ステージ上からお客さんとコミュニケーションとるとき、物販をするとき。特に物販などは、ダイレクトにファンの人と話すチャンスですよね。あと、運が良ければ現地メディアのインタビューもあると思います。SNSの投稿も現地ファン向けに英語でポストできたほうが良いですし、出演交渉の時も現地のオーガナイザーの方と詳しい条件を話すのもほぼ英語だと思います。
もちろん流暢な必要はないと思うし、伝わればそれでいいと思います。現場で意思が通じることが重要だと思うので、メンバー内に一人でも英語ができる人がいたほうが良いと思います。
次回ライブに誘ってもらえるチャンスを掴む事にもつながりますので、条件面での交渉でコミュニケーションできる程度の英語力が最低限必要だと思います。
お気に入りのトイレを見つけておく
※西氏のスライドより抜粋
西氏:海外のトイレ事情、これ冗談っぽいけど、めちゃめちゃ重要です。
というのも、deepsea drive machineのメンバー、ほぼ全員お腹弱いです。
タイもマレーシアも食べ物って辛い物が多いんで、すごく気を遣うんですね。フェスの会場のトイレ環境は厳しいものが多いので。だからと言って、トイレに行けず体調不良のままライブやフェスに行っちゃうと、パフォーマンスに影響しますし、お金を払って観に来てくれているお客さんに失礼にもなりますよね。
なので、ライブを行う際には体調を万全にしておきたいので、一つ自分のお気に入りのトイレを見つけておくといいと思います。
これは半分冗談みたいなところもあるんだけど、僕のおススメのトイレはこれ。バンコクならAsoke駅のところにあるTerminal21のトイレです。ここ、めちゃめちゃいいです。
ウォシュレットもついているし、個室の数もたくさんある。そして行き届いた清掃。なので、自分の便意をTerminal21に合わせて高めていくという。
このようなおススメのトイレは「西PTM(パーフェクトトイレマップ)」っていう地図にまとめてあります。これはバンド内ですごく重要視されています。
海外ツアーで役立つスキル番外編
1回のツアーで1都市をじっくりめぐる
※西氏のスライドより抜粋
西氏:これが正しいというわけではないのですが、「1ツアー1都市」がおススメ。
町をじっくり見てほしいんですよね。もしお休みが取れれば、一都市を、5日間くらいかけてじっくり堪能してほしいです。僕の場合、その街が好きになったら、プライベートでもどんどん行って、ローカルの音楽をガンガン掘ってくる。
そうすると何が良いかっていうと、Parabolica Recordsの場合、自分がやってるレーベルから次に出すバンドとの出会いがあるんですよね。
このスタイルでアジアの音楽を掘りまくっていたら超カッコイイバンドに会った、ということがありました。たとえば、バンコクでは「aire」っていうポストロックバンドを2年ぐらい前にリリースさせてもらって、ツアーまでいっしょにやるくらい、すごい惚れ込んだバンドと出会いました。また、メンバーのGinnさんという方が現地の音楽シーンを詳しく紹介してくれたことで、結果的にStampさんのCDリリースまで辿り着いたという経緯もあります。
そういうバンドとどんどん出会いが深くなっていって、紹介があって次につながっていくということがあるので、一つの都市にじっくり行ってみると良いかと思います。それでその都市が好きになったらローカルの音楽に詳しくなるぐらい、その都市をプライベートでも訪れてみてほしいです。
海外バンドを受け入れたときに発生したトラブル集
※西氏のスライドより抜粋
西氏:最後に、海外バンド来日ツアートラブル編。自分がツアーのホストとなった時に、僕が体験した「カンベンしてくれよ」ということの一覧です。
この中では食に関する習慣や、PAの乗り込み有無などは事前に連絡を行うことで回避できますよね。まあ、こんなことも起こりうる、ということで、皆さんのお役に立てると嬉しいです。
武田氏が伝授するコツ「補助金を上手く使ってツアー経費を節約」
以下、武田氏のトーク内容からお伝えします。
武田氏:自分も資金のところお話しようと思います。
LITEは事務所に所属しているので、活動資金の意味ではかなり恵まれた環境にいるわけですね。バンドの資金というのは、基本的には事務所から用意してもらっているので、自分たちが持ち出しでお金を用意する、ということをはしなくて済んでいます。
ライブやツアーでの売上自体は、経費を差し引くと、最近はトントンになってきたかな、ちょっと黒になったかな、というのが現状です。
そして、ここにありますように、我々はバンド活動のなかで補助金を使っています。
JROP4
※武田氏のスライドより抜粋
※武田氏のスライドより抜粋
武田氏:このJROP4という補助金、行政書士になって初めて知ったんですけども、ほんとにこれ覚えて帰っていただきたくて。まわりにこれを使えそうな方がいたら、ぜひ紹介してあげてほしいです。
これ、れっきとした経済産業省が出してる補助金なんですよ。その補助金が、我々のようなバンドマンでも実は使えるんですね。これは僕の中では行政書士になって一番の衝撃です。
武田氏:日本の、映像・音楽・アニメ・ゲームなど、いわゆるデータ化できるコンテンツを日本から海外に紹介するときのプロモーションやローカライズ費用などが対象です。
つまり、ミュージシャンの海外ツアーにも適用できるんですね。音楽コンテンツを海外に広めるプロモーションに対して費用が出ます。ミュージシャンであれば、たとえば、渡航費、宿泊費、輸送費、レンタカー、ビザとったり、現地でPA雇ったりといった、海外ツアーに必要なこと一式に補助金が出るんですね。
補助金は、費用分の全額もらえるわけじゃないんです。適応される費用の半額までですけれども、かなりありがたいですよね。しかも、返さなくていいんですよ。融資とは違うので返済不要です。
ただ、これは法人だけが対象なんですね。個人でやってる方たちは、基本的にはこれ直接使えないんですけど、たとえば自分たちの所属レーベルが法人の場合なら、レーベルに代わりに申請を出してもらって、自分たちはツアー行く。そして支払い自体はは法人でやってもらう、という方法であれば、この補助金を使うことができます。
JROP4以外の補助金
武田氏:補助金って日本には3,000種類ぐらいあるんですよ。そのなかで音楽関係で使える補助金って、8種類ぐらいになってしまいます。
そのなかでも、今回覚えていってほしい、かなり使える補助金がありまして、つぎの二つも覚えていってもらいたいです。
アーツカウンシル東京
※武田氏のスライドより抜粋
武田氏:アーツカウンシル東京っていうやつですね。
都内での活動では200万円、海外での活動では400万円の補助が出ます。海外公演だけでなく、都内でイベントやったりとするときにも使えるんですね。
ジェイロップとは違って申請の期限が区切られています。あと、申請の時点でまる一年の計画を出さないといけないです。ちょっと使い勝手が悪いんですけど、こういうのもあります。
国際交流基金
※武田氏のスライドより抜粋
武田氏:もう一つ国際交流基金。これも申請の期限かなり限られてます。個人でも法人でも申請できますが、営利活動としての申請はは認められていません。
これ、経費の一部に補助が出て、その金額に上限がない、という特徴があります。
現代芸術振興助成制度
※武田氏のスライドより抜粋
武田氏:現代美術振興ってのもあって、これは一人当たり10万から30万円までの補助がもらえます。今年は募集が終わっちゃいましたけど、毎年募集していますので、もし該当する方がいたらチャレンジしてみてはと思います。
もちろん返金不要なので、チャレンジして損はないと思います。
mutesite:海外の「働きながら音楽活動をする」バンド
※左から、mutesiteのanthony、 jolynn、 purnama
今回のセミナーにゲスト参加してくださったマレーシアのバンド「mutesite」もまた、働きながら音楽活動をしています。
メンバーはそれぞれ、サウンドエンジニア、イベントクルー、コンポーザー、音楽機材レンタルの会社などの仕事をこなしており、今回は「働きながら海外ツアーをする」という形で、7月8日から4日間の日程で来日ツアーを行いました。
mutesite
https://mutesite.bandcamp.com
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https://twitter.com/mutesitemy
世代や国籍を問わず、バンド活動をしていれば一度は憧れる海外ツアー。西氏や武田氏、そしてmutesiteの「働きながら海外ツアーを行う」ための知識やノウハウを参考にし活用していけば、自分が憧れる国でライブをするのも、夢ではないかもしれません。
(了)
※会場:cafe & hall ours
※開催日:2017年7月12日
※主催・モデレーター:鈴木 哲也(oaqk/Penguin Market Records副代表/ ヤフー株式会社)
※取材・撮影・レポート:佐野匠